2014年8月14日木曜日

16年 10-11月 月間MVP



 今月は変則開催となっていますので10月23日から公式戦最終日の11月17日までを対象とさせていただきます。


月間MVP

投手部門

 巨人 中尾輝三 1

 中尾は今月8試合に登板し65回を投げて6勝1敗3完封、防御率0.97、WHIP1.12、奪三振率4.71でした。巨人の年度優勝が決まってからも手を抜かず、南海との激しい秋季優勝を勝ち抜いたのも中尾の激投によるものでした。

 森弘太郎は今月8試合に登板し59回3分の1を投げて6勝1敗1セーブ2完封、防御率0.91、WHIP0.86、奪三振率2.84でした。10月27日の名古屋戦ではノーヒットノーランを記録しています。

 WHIPと奪三振率の違いが両者のピッチングスタイルを物語っています。森は肘を痛めてリリーフ登板が主体となり完投は3試合だけでした。中尾は四球が多いのでどうしてもWHIPは悪くなりますが、秋季優勝争いのキーポイントとなった11月11日の大洋戦では3安打2四球7三振で完封しています。




 その他の候補も見てみましょう。

 川崎徳次は今月7試合に登板し56回3分の2を投げて5勝1敗2完封、防御率0.95、WHIP0.90、奪三振率4.18でした。数字だけを見ると「何故月間MVPじゃないの?」との疑問が出るかもしれませんが、この時点の川崎はまだ神田武夫の二番手であり、下位チーム中心のローテーションになっているのです。勝った相手は朝日から2勝、名古屋から2勝、黒鷲から1勝でした。したがって、月間MVPの対象にはなりません。後付で数字だけを眺めていてもこういう分析はできませんね。

 神田武夫は流石に登板過多から調子を崩し、今月は8試合に登板し55回3分の1を投げて4勝3敗、防御率1.63、WHIP1.17、奪三振率2.78でした。勝った相手は阪神から2勝、阪急から1勝、名古屋から1勝ですから、上位チーム中心のローテーションであったことが分かります。南海は神田と川崎が中心でたまに石田光彦というローテーションを組んでいますが、上位チームは神田、下位チームは川崎が中心でした。神田は月間MVPを獲得した先月でも奪三振率は2.48であり、バッタバッタと三振に切って取るタイプではありません。この辺もイメージだけで評価するのではなく、事実関係に基づいて投球内容を分析することがいかに重要かを物語っています。

 野口二郎も登板過多から調子を崩しており、今月は8試合に登板し61回3分の1を投げて4勝2敗2セーブ1完封、防御率1.44、WHIP0.83、奪三振率5.23でした。WHIPと奪三振率は流石ですが、年間防御率0.88の野口としては1.44はかなり悪いのです。

 彗星の如く現れた広瀬習一は、今月6試合に登板し36回3分の2を投げて3勝1敗1完封、防御率2.72、WHIP1.43、奪三振率3.00でした。調子の波が大きく安定実に欠ける点を数字が物語っています。但し、いい時のピッチングは素晴らしく、来季の飛躍が期待できます。





打撃部門

 阪急 新富卯三郎 1

 新富は今月、14試合に出場して54打数20安打11得点13打点7四球、二塁打4本、三塁打2本、本塁打2本。打率3割7分、出塁率4割4分3厘、長打率6割3分、OPS1.07でした。

 秋季は80打数26安打3割2分5厘で首位打者を獲得しました。前半戦は26打数6安打で2割3分1厘に過ぎなかったのですが、後半爆発しました。昭和9年の日米野球で三宅大輔が新富のバッティングを絶賛していましたが、その素質が開花したのです。アメリカ遠征には参加しましたが昭和11年に応召したためプロ入り自体が昭和14年の終盤でした。昨年が実質デビューとなり、当初は荒いバッティングで期待に応えられない時期が続いていましたが、三宅大輔が見抜いた素質が花開いたのです。しかし、今季を限りに二度目の戦場に赴き、今度は帰ることなく戦死することとなります。

 
 今年刊行された「戦場に散った野球人たち」に新富卯三郎が登場しますが、書かれている内容はWikipediaレベルで全く内容のない焼き直しバージョンです。昭和16年秋季首位打者にすら触れていません。同著の著者はそもそも、当時は春季、夏季、秋季の三シーズンに分けて優勝と首位打者を表彰していた事実すら知らないのではないでしょうか。真実は当ブログにあります。



 その他の候補も見ておきましょう。

 川上哲治は今月、13試合に出場して51打数17安打5得点6打点6四球、二塁打3本、三塁打1本。打率3割3分3厘、出塁率4割4厘、長打率4割3分1厘、OPS0.835でした。川上は年間打率3割1分1厘で首位打者となったが、秋季は新富の打棒が上回ったのである。


 北原昇は今月、14試合に出場して51打数17安打6得点7打点6四球、二塁打3本、本塁打1本。打率3割3分3厘、出塁率4割4厘、長打率4割5分1厘、OPS0.854でした。数字だけ見ると川上との差は得点と打点が川上より1つずつ多く、長打は二塁打が共に3本で川上は三塁打が1本、北原は本塁打が1本。打率は全く同じで出塁率も同じ、長打率が三塁打と本塁打の差だけ北原が上回っており、したがってOPSも北原が上回っている。

 新富卯三郎の爆発が無ければ、月間MVPは北原昇でした。










 

4 件のコメント:

  1. 『戦場に散った野球人たち』はチト残念でしたね。
    一番最初の章が新富卯三郎でしたが、その扉ページにある写真がどうも鈴木尚広の公式HPにある"12番の系譜"という所から引っ張ってきたのではないかと。
    本文も読売新聞大阪社会部の『戦争9 戦没野球人』(1980)からの引用が多いように感じました。
    著者は『昭和十七年の夏 幻の甲子園』を書いた方ですが、取材するのが遅すぎたテーマといえばそれっきりですが。

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    1. よくあるネットからパッパッパというパターンでしょう。立ち読みでやめておいて良かった。小保方論文よりもレベルが低いのでは?(笑)。

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    2. じつにキツ~イ感想ですね(笑)。かく言う私も立ち読みで辞めたクチですが。

      野球史に関する本は古本オンリーです。ここ最近新刊で購入したのは、『最弱球団 高橋ユニオンズ青春記』、『大戦前夜のベーブ・ルース』、『日米野球の架け橋 鈴木惣太郎の人生と正力松太郎』ぐらい。

      BBM社の隔月特集号も長いことご無沙汰です。外部に委託するようになってから、内容がかなり薄くなりました。

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    3. まあ、澤村や吉原や嶋清一だけならそれこそ単なる焼き直しに過ぎなくなる認識はあったようなので、新富卯三郎をとりあげたことは評価しておきましょう。

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