2010年8月31日火曜日

12年秋 金鯱vsタイガース 1回戦

9月17日 (金) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9   計
0 0 3 1 0 0 0 0 1   5   金鯱            5勝5敗 0.500  古谷倉之助 中山正嘉 松元三彦
1 0 5 6 3 0 0 0 X  15  タイガース   8勝2敗 0.800  若林忠志 西村幸生


勝利投手  若林忠志      3勝1敗
敗戦投手  古谷倉之助  3勝2敗


二塁打 (金)江口、矢野2、瀬井 (タ)伊賀上、田中
三塁打 (タ)松木


タイガース圧勝


 タイガースは初回、先頭の松木謙治郎が右中間に三塁打、カイザー田中義雄の左前タイムリーで1点を先制する。金鯱は3回、相原輝夫の左前打を皮切りに古谷倉之助遊失、好調江口行男右中間タイムリー二塁打、矢野槇雄右翼線2点タイムリー二塁打で3点をあげて逆転。

 タイガースは3回裏、岡田宗芳、松木の連続四球と本堂保次の一塁内野安打で無死満塁、山口政信右前タイムリー、景浦将押出し四球で3-3の同点、エラーと伊賀上良平の遊ゴロで3点を追加して6-3とする。

 セネタースは4回、内野安打で出塁した黒澤俊夫を瀬井清の中犠飛で還して4-6とするが、タイガースは4回裏、岡田左前打、松木四球、本堂犠打野選で無死満塁、山口押出し四球、景浦投手強襲2点タイムリー、更に田中のタイムリーと伊賀上の二塁打でこの回一挙6点。5回も松木、本堂連続四球から山口のタイムリーと田中の二塁打で3点を追加。

 セネタースは9回、小林利蔵のタイムリーで1点を返すが大勢に影響はなくタイガースが圧勝。カイザー田中義雄は3安打4打点、山口政信が2安打3打点、伊賀上良平が2安打3打点をあげる。

12年秋 セネタースvs名古屋 1回戦

9月17日 (金) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 1 0 0 0 3 0 5 セネタース 3勝7敗         0.300  浅岡三郎 伊藤次郎 野口明
0 0 0 0 0 1 1 2 0 4 名古屋    3勝6敗1分   0.333  木下博喜 森井茂


勝利投手 野口明 3勝5敗
敗戦投手 森井茂 2勝3敗


二塁打 (セ)尾茂田、中村信、中村民 (名)大沢


苅田監督初陣を飾る


 9月15日付け読売新聞は、セネタース横沢三郎監督の辞任を次のように報じている。「セネタース監督横沢三郎氏は今回監督を辞任すると同時に同軍から退社したが今後は聯盟専属審判として活躍することとなった。」

 セネタースは苅田久徳がプレイングマネージャーとしての初戦とあって負けられないところ。セネタースは3回、辞任した横沢三郎氏の弟横沢七郎が四球で出塁、浅岡三郎が送って横沢はワイルドピッチで三進、中村信一が左前に先制タイムリーを放ち1点を先制する。更に4回、先頭の尾茂田叶が左中間を破る二塁打、綿貫惣司が左前にタイムリーを放って2-0。

 セネタース先発浅岡三郎に5回まで1安打に抑えられていた名古屋は6回、先頭の石丸藤吉が四球で出塁、石田政良が送って大沢清の右前タイムリーで1-2とする。更に7回、二番手伊藤次郎から一死後小島茂男が四球を選んで出塁、芳賀直一が中前打で続き森井茂が左前にタイムリーを放ち2-2の同点、セネタースは三番手に野口明を投入して後続を断つ。

 セネタースは8回、横沢がセカンド内野安打で出塁、野口明の遊ゴロで横沢は二進、中村信一の中越え二塁打で3-2、尾茂田の中前タイムリーで4-2、中村民雄が左中間に二塁打を放ち5-2と突き放す。

 名古屋は8回裏、石田、桝嘉一の連続ヒットから大沢清が右中間を破る二塁打を放って二者還り4-5と詰め寄るが後続なく、セネタースが苅田監督に初勝利をプレゼントする。

 辞任した横沢三郎氏の弟七郎が先制と決勝のホームを踏む。三郎氏は弟に無念の胸の内を伝えていたのだろうか。横沢三郎はセネタース監督に就任するや明治大学から野口明を引き抜いたため駿台倶楽部を除名されている。今またセネタース監督を辞任、戦後も第二次セネタースを作るが東急が乗り出してきたことから辞任、審判に復帰し、1988年に野球殿堂入りしている。自説を曲げない気骨の人物なのであろう。これまた気骨の人・キャプテン大貫賢も横沢三郎に殉じてセネタースを去ることとなる。

12年秋 第2節 週間MVP

 今節(9月7日~12日)はタイガースが3勝1敗、阪急が1勝3敗、他の六チームは2勝2敗という混戦であった。




週間MVP


 イーグルス 畑福俊英 2


 今節は畑福俊英が2勝1敗、野口明が2勝1敗で大混戦となった。畑福は3試合に完投して28回、被安打24、与四球10、奪三振11、失点9、自責点5。
 一方、野口明は3試合に完投して27回、被安打24、与四球7、奪三振9、失点10、自責点7と甲乙つけ難い成績。畑福は野口明との直接対決に勝利していること、タイガース戦にも延長10回を投げきり勝利していることが評価された。


 ジャイアンツ 中島治康 1


今節3本のホームランを放つ。



 
殊勲賞 

 金鯱 矢野槇雄 1


 後楽園球場公式戦初本塁打を記録する。


敢闘賞

 セネタース 野口明

 週間MVPこそ畑福に譲るが、ようやく復調なって2勝をあげる。


技能賞

 タイガース 若林忠志 1
 
 好調イーグルス打線を完封。



 金鯱    江口行男 1 

 今節18打数8安の活躍。



 
  









 

2010年8月30日月曜日

12年秋 ライオンvsジャイアンツ 1回戦

9月15日 (水) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 1 0 0 0 0 2 1 6   ライオン         4勝6敗  0.400  大友一明 桜井七之助
0 0 7 0 0 0 1 1 X 9  ジャイアンツ   6勝4敗  0.600  スタルヒン


勝利投手 スタルヒン   3勝2敗
敗戦投手 大友一明  1勝3敗


二塁打 (ジ)スタルヒン
三塁打 (ラ)坪内 (ジ)水原、永澤
本塁打 (ジ)伊藤 2号


水原茂、4打点の活躍


 ライオンは初回、鬼頭数雄左前打、藤浪光雄中前打、水谷則一の二ゴロで藤浪が二封されて一死一三塁、浅原直人四球後坪内道則の遊ゴロをショート白石敏男がエラーする間に二者が還り2点を先制する。更に3回、浅原四球、坪内の二飛をセカンド筒井修が落球、中野隆雄の遊ゴロを又も白石がタイムリーエラーして3-0とする。

 ジャイアンツは3回裏、中島治康の左飛をレフト煤孫伝が落球、前川八郎の三ゴロをサード柳澤騰市が一塁に悪送球、伊藤健太郎の中前打で無死満塁、永澤富士雄の中犠飛で1-3。スタルヒンの三ゴロで一走伊藤は二封、内堀保の右翼線タイムリーで2-3、白石四球で二死満塁、筒井が押出し四球を選んで3-3の同点、ここで水原茂が右中間に走者一掃となる三塁打を放って6-3、中島の左前タイムリーで7-3とする。

 ジャイアンツは7回にも水原の4打点目となるタイムリーで1点追加、8回にも伊藤健太郎の左越えホームランで加点する。ライオンも8回、四球の浅原を坪内の三塁打で還し、桜井七之助のタイムリーが続いて2点、9回にも坪内のタイムリーで1点を返すがここまで。

 スタルヒンは7安打6四球6三振の完投で3勝目をあげる。

12年秋 阪急vsイーグルス 1回戦

9月15日 (水) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 7 0 0 7  阪急             4勝5敗1分  0.444  石田光彦 笠松実
2 1 0 0 0 0 0 1 1 5  イーグルス   6勝4敗        0.600  畑福俊英 松本操 望月潤一


勝利投手 石田光彦 2勝2敗
敗戦投手 畑福俊英 4勝2敗
セーブ    笠松実 1


二塁打 (阪)山田 (イ)高橋、畑福
三塁打 (阪)石田 (イ)望月


阪急打線、終盤に爆発


 イーグルスは初回、寺内一隆ショート内野安打、野村実の捕前送りバントをキャッチャー島本義文が一塁に悪送球して犠打エラーとなり寺内は三塁に進む。野村が二盗を決めて無死二三塁、バッキー・ハリスは三邪飛に倒れるがサム高橋吉雄が左中間を破り2点を先制する。イーグルスは2回、二死から畑福俊英が左中間に二塁打、寺内が中前にタイムリーを放って3-0とする。

 6回まで畑福に3安打無得点に抑えられていた阪急は7回、畑福が突如コントロールを乱し黒田健吾、山下実、山下好一と三連続四球で無死満塁、ジミー堀尾文人の中犠飛でまず1点、上田藤夫の遊ゴロをショート野村が失する間に2点目、宇野錦次に代わる代打山田勝三郎の二塁打で3-3の同点、石田光彦が中越えに三塁打を放って二者還り5-3と逆転に成功。更に西村正夫、黒田、山下実の三連打で2点を追加して7-3とする。

 イーグルスは8回、中前打のハリスが高橋の遊ゴロで二塁に進み、太田健一の中前タイムリーで4-7。9回にも漆原進に代わる代打田村稔が四球で歩き代走に山本博愛を起用、8回から三番手として登板して2イニングを1安打無失点に抑えて気を良くした望月潤一が右中間にプロ入り初安打となるタイムリー三塁打を放って5-7と追いすがるが後続なく阪急が逆転勝利を飾る。

 イーグルスとしては5試合連続完投の畑福俊英を引っ張りすぎたことが敗因であったが、一戦毎にピッチング内容が良くなってきている期待の大型左腕望月潤一に使える目途が立ってきたことは収穫。 

2010年8月29日日曜日

12年秋 タイガースvsジャイアンツ 2回戦

9月12日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  計
0 0 0 2 0 3 3 0 0  1   9  タイガース      7勝2敗   0.778  若林忠志 西村幸生 景浦将
1 0 3 0 1 0 0 1 2  0   8  ジャイアンツ   5勝4敗   0.556  澤村栄治 スタルヒン


勝利投手 景浦将   2勝0敗
敗戦投手 スタルヒン 2勝2敗


二塁打 (タ)山口、田中、景浦、岡田 (ジ)筒井、中島、前川、スタルヒン、平山
三塁打 (タ)藤井 (ジ)水原
本塁打 (ジ)中島 2号・3号


伝統の礎


 大和球士氏は「真説 日本野球史」でこの試合を“名勝負六花撰その二”として紹介している。因みに「その一」は昭和12年6月27日の春季リーグ戦ジャイアンツvsタイガース8回戦、延長12回1対0の激闘である。更に因みに「その一」の時に「ご参考までに予告しておくと“六花撰その二”は、17年5月に行われる“延長二十八回の大決戦”であり」と書かれており(1978年7月20日第1刷第1版)、急遽変更したものと考えられる。ジャイアンツは当然澤村栄治の先発、タイガースはジャイアンツ藤本定義監督が新聞誌上で“苦手”と公言している若林忠志の先発。

 ジャイアンツは初回、一死後筒井修が中越えに二塁打を放ち水原茂の左前打で一死一三塁、中島治康が右中間を破る二塁打を放って1点を先制。更に3回、一死後筒井が四球で出塁、水原の三ゴロをサード伊賀上良平が失して一死一二塁、ここで主砲中島治康が左翼スタンドにスリーランホームランを叩き込んで4-0とリードを広げる。

 春の澤村であればここで勝負あったというところであるが、夏のオープン戦で澤村を打ちこんだタイガース打線は反撃に転じる。タイガースは4回、二死後藤井勇が遊失に生き、本堂保次の右前打で二死一三塁、ここで登場したのが澤村アレルギーの無いカイザー田中義雄、田中は左中間を破る二塁打を放ち二者が還って2-4とする。

 タイガースは4回から若林が退き西村幸生が登板する。ジャイアンツは5回、水原が右中間に三塁打を放ち更に中継に入ったショート岡田宗芳の悪送球の間にホームに還り5-2とする。

 タイガースは6回、先頭の藤井が四球に歩き、本堂中前打、田中左前打で無死満塁、若林が押出し四球を選んで3-5、続く岡田の三ゴロをサード水原が二塁に悪送球(翌日の読売新聞では本塁に悪送球となっているがスコアブックには「5’-4」と記録されており、二塁への悪送球が史実である。)する間に三走本堂に続いて二走田中も生還して5-5の同点となる。トップに返り松木謙治郎が送って一死二三塁、しかしここは澤村が意地を見せて伊賀上、山口政信が連続三振に倒れる。

 タイガースは7回、この回先頭の景浦将が左翼線に二塁打、藤井が右中間を破る三塁打を放ち6-5と逆転、ジャイアンツベンチはここで澤村をあきらめてスタルヒンを投入する。本堂四球後盗塁、田中三振で一死二三塁、打席には西村幸生、打撃も良い西村は左前に2点タイムリーを放ち8-5とする。この場面は「真説 日本野球史」には「“スタ公に一丁噛ましてやるか”とふてぶてしくいい残して右ボックスに立った投手西村が大言通り、三遊間適時安打を放って二者を迎え入れた。」と記されている(当ブログで「スタ公」を用いるのは今回で二度目です。スタルヒンの愛称とお考えください。)。

 ジャイアンツは8回、先頭の前川八郎が中前打、二死後スタルヒンが左中間を破り前川が還って6-8(当ブログを継続して読まれている方はスタルヒンの打撃に舌を巻かれていることでしょう。打者としても大成していたのではないでしょうか。)。続く内堀保に代えて代打青柴憲一を起用するが三振、キャッチャーは津田四郎主将に交代する。
 ジャイアンツは9回、白石、筒井が倒れて二死無走者、ここで水原がしぶとく四球を選び四番中島治康につなぐ。中島は左越えにこの日2本目となる起死回生の同点ツーランホームランを放って8-8の同点。更に前川四球、平山菊二左翼線二塁打で二死二三塁とするが永澤富士雄の代打山本栄一郎が右飛に倒れて延長戦に突入。山本がライトに入り中島はファーストを守る。

 タイガースは10回表、西村に代打藤村富美男を送るが三ゴロ、続く岡田が右中間を抜いて二塁打、松木の三球目にキャッチャー津田のパスボールで岡田は三進、松木四球後盗塁で一死二三塁、続く伊賀上はワンボール後二球ファウルでツーワン(当ブログでは日本式カウントを採用しております。)、ツーツー後三球ファウルで粘り八球目、又も津田がパスボールを犯して岡田が生還し9-8とタイガースが1点をリードする。

 西村に代打が送られたことから10回裏のマウンドには景浦がライトから登場、ライトには玉井栄が入る。ジャイアンツは二死後白石が一塁内野安打で出塁して最後の粘りを見せるが筒井が二飛に倒れてゲームセット。9対8でタイガースが激戦を制す。

 中島治康は5打数3安打、二塁打1本、本塁打2本、10塁打6打点を記録する。1試合10塁打は景浦将と門前真佐人の持つ9を抜く新記録(昭和11年を除く。当ブログが手作業でまとめた記録に基づくものであり公式記録と異なる可能性がありますのでご注意ください。)。


 巨人vs阪神戦の激闘と言えば1973年10月11日の10対10の引き分け試合を覚えている方も多いことでしょう。この試合は後楽園球場のデーゲームで行われました。当時中学三年の筆者は学校からの帰り、この試合を水道橋駅から眺めていました。水道橋駅のお茶の水側階段横の窓から後楽園球場の三塁側スタンド上段が見えました。市川から千代田区に通っていた(いわゆる越境入学、当時の市川市の小学生の多くは千代田区の中学に通っており、筆者のクラスの3分の1は千代田区に通っていました)筆者は、後楽園球場に通うため(東映vs西鉄戦を見るため、1973年のみ日拓ホームvs太平洋クラブです)定期券はお茶の水までではなく水道橋まで買っていました。水道橋駅にも地鳴りのような歓声が聞こえていました。翌日阪神は中日に敗れ(巨人がこの試合の途中新幹線で中日球場の横を通過したことで有名です。)、甲子園で巨人が阪神を破りV9が達成されました。阪神ファンに殺される可能性があったため川上監督の胴上げは行われず、試合終了と同時に巨人ナインは全速力でダッグアウトに逃げ込みました(高橋一三の逃げ足の速かったこと)。

 後楽園球場における巨人vs阪神の第一戦は歴史的激戦となり伝統の礎となったのである。

12年秋 阪急vsセネタース 2回戦

9月12日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0  阪急            3勝5敗1分  0.375 石田光彦
0 0 0 0 0 2 0 0 X 2 セネタース    2勝7敗       0.222  野口明


勝利投手 野口明   2勝5敗
敗戦投手 石田光彦 1勝2敗


二塁打 (阪)石田 (セ)綿貫、中村民


野口明、今季初完封


 阪急は初回、黒田健吾のヒットと山下好一の四球で先制のチャンスをつかむが無得点、2回も一死後石田光彦が二塁打を放つが後続なし。一方セネタースは3回まで三者凡退が続き序盤戦は阪急が押し気味にゲームを進める。セネタースは4回、苅田久徳が中前に初ヒット、5回も先頭の綿貫惣司が中越え二塁打を放ち徐々に阪急先発石田をとらえる。セネタースは6回、先頭の野口明が四球で出塁、トップに返り中村信一が三前に送りバントを決めて一死二塁、苅田は遊ゴロに倒れるが尾茂田叶が四球でつなぎ、四番中村民雄が左中間を抜く二塁打を放って二者を迎え入れて2点を先制する。

 野口明は3、4回を三者凡退、5回は先頭の石田に内野安打を許し、島本義文に送られ一死二塁のピンチを迎えるが続く林信一郎のファーストライナーが3-6と転送されてゲッツー。6回は黒田のヒット後山下実に四球を与え一死一二塁のピンチを迎えるが山下好一、ジミー堀尾文人を打ち取り、8回には先頭の山田勝三郎を四球で歩かせるが続く西村正夫に代わる代打重松通雄を三ゴロに仕留め5-4-3のゲッツー。野口明としては西村ならゲッツーは無いのでここは西村の方が嫌だったのではないか。重松が出てきてしめたと思って得意のシュートで三ゴロに仕留めたのであろう。続く黒田も三ゴロに打ち取る。9回も先頭の山下実に右前打を許すが一死後、堀尾を投ゴロに打ち取り1-4-3のゲッツーで締めて今季初完封を飾る。

 セネターは3併殺と野口明を守り立てて(「盛り立てて」と書くと思っておりましたが辞書で調べたところこちらが正しいようです。)久々に「らしい」勝ちっぷりを見せてくれた。両軍無失策の引き締まったゲームであった。

12年秋 金鯱vsライオン 2回戦

9月12日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 6 0 0 0 0 0 0 0 6 金鯱         5勝4敗  0.556  中山正嘉 松元三彦 鈴木鶴雄
7 1 0 0 0 0 0 0 X 8 ライオン   4勝5敗  0.444  近藤久 桜井七之助


勝利投手 近藤久   1勝1敗
敗戦投手 中山正嘉 1勝1敗
セーブ    桜井七之助 1


本塁打 (金)矢野 1号


矢野槇雄、後楽園公式戦初ホームラン


 ライオンは初回、先頭の鬼頭数雄が中前打で出塁、藤浪光雄、水谷則一連続四球で無死満塁、浅原直人の右前タイムリーで二者が還り2点を先制する。続く坪内道則の送りバントは内野安打となり再び無死満塁、一死後大友一明が押出し四球を選んで3点目。ここで金鯱は先発中山正嘉から松元三彦にスイッチ、しかし松元はいきなりボークを犯して4点目、柳澤騰市四球で一死満塁、近藤久押出し四球で5点目、鬼頭の二ゴロの間に三走大友が還って6点目、藤浪の三塁内野安打でこの回一挙7点をあげる。

 金鯱は2回、黒澤俊夫、小林茂太、瀬井清が三連続四球で無死満塁、ライオン先発近藤久が降板しリリーフに桜井七之助を投入。相原輝夫が中前にタイムリーを放って二者還り2点を返す。松元四球で再び無死満塁、島秀之助の投ゴロは1-2-3と渡るゲッツーとなり二死二三塁、江口行男四球で二死満塁、ここで三番矢野槇雄が左翼スタンドに満塁ホームランを叩き込んでこの回6点を返す。後楽園球場初ホームランは前日の紅白戦における水原茂であるが、後楽園球場公式戦初ホームランは矢野槇雄による満塁ホームランである。

 ライオンは2回、先頭の浅原の遊ゴロをショート瀬井清が低投して浅原は二塁に進む、坪内右前打、中野隆雄右翼線タイムリーで8-6とする。このまま行くと何点入るのかという立ち上がりであったがこの後は両軍無得点でライオンが金鯱を降す。

 この試合の勝ち投手は1回3分の0で降板した近藤久に記録されており、その後の8回を投げきった桜井七之助は流石に気の毒か。桜井は代わった直後に満塁ホームランを打たれており、8回で12四球を与えているので勝ち投手の権利はないと判断されたのであろう。桜井には当ブログルールによりセーブが記録された。昭和12年当時の勝利投手の記録及び当ブログにおけるセーブの取り扱いについては2010年3月24日付ブログ「解読」を参照してください。金鯱投手陣も合計11個の四球を与えており、近藤の3個と合わせて両チーム合計26個の四球が飛びかった。

12年秋 名古屋vsイーグルス 2回戦

9月12日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 2 0 0 0 0 3  名古屋         3勝5敗1分  0.375  森井茂
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0  イーグルス   6勝3敗        0.667  畑福俊英


勝利投手 森井茂   2勝2敗
敗戦投手 畑福俊英 4勝1敗


二塁打 (名)石田、芳賀、小島2、石丸、高木 (イ)畑福


名古屋が後楽園初勝利


 いよいよイーグルスの本拠地後楽園球場が完成し、本日は八チームが集結して4試合が行われる。スコアブックには観衆の記載はないが、読売新聞及び「真説 日本野球史」には2万人の観衆が詰めかけたと記されており、第四試合のころには2万5千人に膨れ上がったとされている。第一試合は10時15分、池田豊主審が高々とプレイボールをコールして試合開始のサイレンが鳴り響き、後楽園球場の長い歴史がスタートした。

 名古屋は4回、一死後小島茂男が右翼線に二塁打、芳賀直一の三失で一死一三塁、森井茂が右犠飛を打ち上げて小島が還り、記念すべき後楽園球場公式戦初得点を記録する(犠飛は当ブログ独自の判断で記載させていただいております。昭和12年当時は犠牲フライは記録されておりません。2010年3月24日付ブログ「解読」を参照してください。)。

 名古屋は5回、この回先頭の石丸藤吉が左越えに二塁打、石田政良が左前に痛打を放ち無死一三塁、桝嘉一の遊ゴロで三走石丸はホームに突っ込むがショート野村実の送球に刺されて一死一二塁、しかし大沢清が中前に弾き返して一死満塁、高木茂の三前内野安打で2-0、小島が投前にスクイズを決めて3-0とする。

 好調イーグルスは森井茂のスローカーブにてこずり3回まで三者凡退が続く。4回二死からバッキー・ハリス、サム高橋吉雄の連打が出るが無得点。8回は先頭の畑福俊英が二塁打を放ってチャンスを作るが後続なく、9回には二死後、9月10日に登録されたばかりのルーキー村沢秀雄が中前打を放つが、続く中河美芳の中前打で村澤は三塁に達し更にホームを突くが8-4-2の中継でタッチアウトとなりゲームセット。記念すべき後楽園球場公式戦初勝利は名古屋が記録することとなった。イーグルスは本拠地後楽園球場での開幕戦を飾ることはできず。

 名古屋は13安打のうち二塁打が6本。森井茂は7安打2四死球3三振で今季2勝目、開幕戦に続く今季二度目の完封勝利を飾る。一方畑福俊英は5試合連続完投を記録するが今季初黒星を喫す。

紅白戦

 昭和12年9月11日、後楽園球場の公式戦開始を明日に控え、八球団による紅白戦が行われた。先攻の紅軍はジャイアンツ、阪急、名古屋、イーグルス。後攻の白軍はタイガース、セネタース、金鯱、ライオン。両チーム26名ずつ、合計52名が選出された。メンバーは以下のとおり。

紅軍

投手 :澤村栄治、石田光彦、木下博喜、畑福俊英
捕手 :倉信雄、島本義文、三浦敏一、バッキー・ハリス
一塁 :山下実、小島茂男
二塁 :筒井修、石丸藤吉
三塁 :水原茂、黒田健吾
遊撃 :白石敏男、芳賀直一
左翼 :山下好一、寺内一隆
中堅 :伊藤健太郎、杉田屋守
右翼 :中島治康、西村正夫
補欠 :中根之、大沢清、サム高橋吉雄


白軍 

投手 :若林忠志、野口明、古谷倉之助、近藤久
捕手 :門前真佐人、中村民雄、相原輝夫、藤浪光雄
一塁 :松木謙治郎、浅原直人
二塁 :藤村富美男、苅田久徳
三塁 :伊賀上良平、矢野槇雄
遊撃 :岡田宗芳、瀬井清
左翼 :黒澤俊夫、鬼頭数雄
中堅 :山口政信、尾茂田叶
右翼 :景浦将、水谷則一
補欠 :大貫賢、綿貫惣司、江口行男、島秀之助



 先発は、紅軍が石田光彦、白軍が若林忠志。紅軍初回の攻撃で水原茂が若林からホームランを放ち、これが後楽園第1号ホームランとして記憶されている。試合は白軍が2対1でサヨナラ勝ちした。補欠を含めた両軍26名、合計52名が全員出場したが、古谷倉之助に何かアクシデントがあったのか古谷は出場しておらず、白軍の四番手投手は公式戦同様ライトから景浦将がマウンドに上った。

 金鯱・古谷倉之助の代役として、イーグルスの望月潤一が出場した。9回裏白軍の攻撃は、江口行男右飛後、景浦が四球を選び代走に望月潤一が起用された。松木謙治郎四球、綿貫惣司左翼安打で一死満塁となり、矢野槇雄が押し出し四球を選んで望月がサヨナラのホームを踏んだ。

 イーグルスは紅軍の所属であるにもかかわらず白軍の古谷倉之助の代役に望月潤一が選ばれた理由は不明である。現在であれば金鯱から代役が選ばれなくてはならないとネット上で非難の嵐となっているでしょう。

 何でもかでもルールでがんじがらめになっている現代と比べて何とおおらかなことでしょうか。ことと場合によってはこのような柔軟な対応が求められる場合もあります。


*この試合は公式戦ではありませんので私の所有するスコアブックには記録は残っておりません。本稿は読売新聞の記事に基づき作成させていただいております。

2010年8月28日土曜日

12年秋 名古屋vs阪急 3回戦

9月9日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
4 0 0 3 0 0 0 0 0   7  名古屋  2勝5敗1分  0.286  遠藤忠二郎 森井茂 田中実
2 0 0 0 3 4 3 2 X 14  阪急      3勝4敗1分  0.429  笠松実 重松通雄 石田光彦


勝利投手 石田光彦 1勝1敗
敗戦投手 森井茂   1勝2敗


二塁打 (名)高木、三浦、大沢 (阪)
三塁打 (名)高木 (阪)山下好、林
本塁打 (阪)山下実 1号


黒田健吾、3安打3打点の活躍


 名古屋は初回、一死後石田政良左前打、桝嘉一右前打、大沢清四球で一死満塁、ここで高木茂が右中間に走者一掃の三塁打を放って3点を先制、小島茂男が中前タイムリーで続き4-0とする。阪急先発笠松実は早くもKO、重松通雄がリリーフに出て後続を断つ。

 阪急は1回裏、先頭の西村正夫四球、山下実の一ゴロで西村二進、山下好一のピッチャー強襲ヒットと盗塁で二死二三塁、ジミー堀尾文人はツーストライク後空振り、しかしキャッチャー三浦敏一が後逸して振り逃げとなり三走西村が生還。続く山田伝の三球目に三浦がパスボールしてこの回2点を返す。名古屋は三浦の二つのミスで2点を失ったがここは責められない。翌日の読売新聞によると、「芳賀の不出場で倉本を遊撃に配したため名古屋の本塁は包帯姿もいたましい三浦がマスクを取っての出場に寧ろ悲壮な感さえ抱かせた」とのこと。ショート芳賀直一の欠場により第二キャッチャーの倉本信護がショートを守る羽目となり、怪我の三浦敏一が緊急マスクという状況であった。三浦は先発マスクを被った9月7日のジャイアンツ戦で、ジャイアンツ5回の攻撃中に倉本と交代しているが、この時の怪我であろう。三浦は第三打席で中越え二塁打を放っている。

 名古屋は4回、一死後三浦が二失に生き、石丸藤吉がサード内野安打、石田がセカンド内野安打で一死満塁。阪急もショート上田藤夫の欠場により黒田健吾がショートに回っているため、サードは林信一郎(本来ファースト)、セカンドにはジミー堀尾文人(本来外野)が入らざるを得ない状況である。桝が押出し四球を選んで5-2、ここで重松から三番手石田光彦に交代、大沢の一ゴロで一走桝が二封される間に三走石丸が還って6-2、高木が左中間に二塁打を放って石田が還り7-2とリードを広げる。

 阪急は5回、西村、黒田の連続四球から山下好一が右中間に三塁打、堀尾の内野安打で山下好も還り5-7と追い上げる。続く6回、先頭の林が左中間に三塁打、石田、西村連続四球で一死満塁、黒田が中前に2点タイムリーを放ち7-7の同点。ピッチャーは遠藤から森井茂に交代。二走西村はピッチャー牽制に刺されるが山下実四球、山下好一の遊ゴロをショート倉本が失する間に二走黒田が還って8-7と逆転、山田勝三郎の遊ゴロの間に山下実も還って9-7とする。

 阪急は7回、黒田のタイムリーと山下実のツーランホームランで3点を追加、8回にも石田と西村のタイムリーで2点を追加して結局14A対7で快勝する。両チームともけが人続出で大味な試合となってしまった。阪急では黒田健吾が同点タイムリーを含む3安打3打点、名古屋では高木茂が2安打4打点の活躍。

2010年8月27日金曜日

12年秋 ジャイアンツvs金鯱 3回戦

9月9日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
0 0 0 0 0 0 1 0 0  2  3  ジャイアンツ   5勝3敗  0.625  前川八郎 スタルヒン
0 0 0 0 1 0 0 0 0  0  1  金鯱               5勝3敗  0.625  中山正嘉 古谷倉之助


勝利投手 スタルヒン    2勝1敗
敗戦投手 古谷倉之助 3勝1敗


二塁打 (ジ)筒井 (金)瀬井


ジャイアンツ、接戦を制して同率三位に浮上


 金鯱は5回、この回先頭の黒澤俊夫が四球で出塁、一死後瀬井清が左翼線に二塁打を放って一死二三塁、相原輝夫の一ゴロで三走黒澤が突っ込みファースト永澤富士雄がバックホームするも間に合わず野選となって金鯱が1点を先制。

 金鯱先発の中山正嘉は6回まで2安打無得点と春季リー部戦終盤にタイガースを2試合連続2安打完封して以来の出来。しかしジャイアンツは7回、一死後前川八郎、山本栄一郎が連続四球で一死一二塁、トップに返り白石敏男が中前に同点タイムリーを放って1-1とする。

 ジャイアンツは7回裏、一死後前川が瀬井に四球を与えたところでスタルヒンにスイッチ、相原のサードライナーに瀬井が飛び出しゲッツーで切り抜ける。金鯱も9回表、中山が永澤とスタルヒンにヒットを許すと古谷倉之助にスイッチ、古谷が後続を断つ。9回裏金鯱の攻撃、二死ながら黒澤、小林茂太が連続四球を選ぶが瀬井が左飛に倒れて延長へ。

 延長に入ってジャイアンツは10回表、この回先頭の筒井修が左翼線に二塁打、水原茂の投前送りバントを古谷が三塁に送球するが間に合わず犠打野選となって無死一三塁、中島治康の遊ゴロは6-4と渡りワンアウト、ここで三走筒井がスタートを切るとセカンド江口行男はホームに送球、しかしこれが悪送球となって2-1と1点リードして中島も二塁に進む。更にワイルドピッチで中島は三塁に進み、伊藤健太郎の左犠飛で1点追加して3-1とする。

 スタルヒンは10回裏の金鯱の攻撃を三者凡退に抑えて、結局無安打のリリーフで2勝目をあげる。久々にジャイアンツらしい戦いで金鯱に並び同率三位に浮上。

2010年8月26日木曜日

12年秋 タイガースvsライオン 3回戦

9月9日 (木) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 0 0 2 0 3  タイガース 6勝2敗 0.750 藤村富美男 西村幸生
2 0 0 0 0 0 0 0 0 2  ライオン     3勝5敗 0.375 近藤久



二塁打 (タ)山口、門前 (ラ)水谷


勝利投手 西村幸生 3勝1敗
敗戦投手 近藤久   0勝1敗


西村幸生、好リリーフ


 ライオンは初回、先頭の鬼頭数雄が二遊間を破って出塁、藤浪光雄の三ゴロでランナーが入れ替わり、水谷則一が右前に安打を放ち藤浪は三塁へ、ライトからのバックサードの間に水谷も二塁を陥れて一死二三塁、浅原直人の中前2点タイムリーで2-0と先制する。

 タイガースは2回から先発藤村富美男を降板させ西村幸生を投入、この積極策が当たり終盤の逆転に結びつくこととなる。タイガースは3回、先頭の松木謙治郎が一塁内野安打で出塁、伊賀上良平の三ゴロでランナーが入れ替わり、山口政信四球後、景浦将が中前にタイムリーを放って1-2。

 タイガースは8回、先頭の山口が左中間に二塁打、カイザー田中義雄に代わる代打門前真佐人が左中間に二塁打を放って2-2の同点。更に本堂保次の右前打で門前が還って3-2と逆転に成功する。

 2回からリリーフに立った西村幸生は8イニングを6安打2四球7三振に抑えて3勝目を飾る。 

12年秋 イーグルスvsセネタース 3回戦

9月9日 (木) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 3 3 0 0 7  イーグルス  6勝2敗  0.750  畑福俊英
0 1 3 0 0 0 0 0 0 4  セネタース  1勝7敗   0.125  野口明


勝利投手 畑福俊英 4勝0敗
敗戦投手 野口明   1勝5敗


二塁打 (セ)中村信、大貫
本塁打 (セ)家村 1号


イーグルス、鮮やかな逆転勝利


 セネタースは2回、先頭の中村民雄が遊失に生き続く大貫賢は一塁線に送りバント、ファースト中河美芳が捕ってそのまま一塁ベースを踏み中村民は二塁に進むがオーバーラン、この隙を見逃さず中河がセカンドベースカバーに入ったサム高橋吉雄に送球して中村民はタッチアウト、大貫には犠打が記録されるが中河・高橋による併殺も記録される。二死無走者となったがここで家村相太郎の当りはセンターへ、センター杉田屋守が突っ込むが後逸、家村は一気にホームに還る。杉田屋のグラブに当っていなかったことから記録はインサイド・ザ・パーク・ホームラン。流石は「元祖・意外性の男」。

 セネタースは3回、この回先頭の野口明が右前打で出塁、二死後中村信一がセンター左奥に二塁打を放ち野口が還って2-0、尾茂田叶遊失から二盗を決めて二死二三塁、中村民が左前に2点タイムリーを放ち4-0とする。

 春季リーグ戦の野口明であれば勝負あったというところであるが、秋は違う。イーグルスは5回、この回先頭の太田健一がピッチャー強襲ヒット、中河三失、漆原進の送りバントは内野安打となり無死満塁、畑福俊英の三ゴロで1点を返す。イーグルスは6回、一死後バッキー・ハリスが遊失に生き、高橋左翼線安打で一死一二塁、ここでキャッチャー中村民雄が一塁に牽制、この隙を突いてハリスは三塁を陥れて記録は三盗。杉田屋の三塁内野安打でハリスが還り2-4、太田の左前タイムリーで3-4、二死後漆原の左前タイムリーで4-4の同点に追い付く。

 イーグルスは7回、先頭の寺内一隆右前打、野村実左前打、ハリスが送って高橋四球で一死満塁、杉田屋がライト戦に2点タイムリーを放ち6-4、太田も左前タイムリーで続き7-4として見事な逆転勝利を飾る。翌日の読売新聞市岡忠男の論評によるとイーグルスのヒットは大半がテキサス・リーガーズ・ヒットであったとのこと。実際、イーグルスが放った14本のヒットは全てシングルヒットであった。逆に言うとそれだけ振りきれていることが猛練習を背景とした好調の秘訣かもしれない(テキサス・ヒットが生じる原因には諸説ありますが、バットが振りきれていることを要因とする説が有力です。元々は「テキサス・リーグの二軍の試合で見られるようなヒット」と揶揄された表現だったようです。)。

 畑福俊英は6安打1四球6三振1ボークで4試合連続完投、無傷の4連勝。一方野口明は1勝5敗で春とは完全に立場が入れ替わってしまった。翌日の読売新聞は「今秋のセ軍は全く精彩を欠き気力的に見るべきものなく、持てる相当の力を腐らせているのはその原因を探求して一考せねばなるまい。」と記している。この後、横沢三郎監督が解任され苅田がプレイング・マネージャーとなることからもチームの内情は察しがつく。

12年秋 阪急vs金鯱 2回戦

9月8日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 2 0 0 0 0 0 2   阪急  2勝4敗1分  0.333  石田光彦
0 1 0 0 0 0 0 2 X 3   金鯱  5勝2敗        0.714  鈴木鶴雄


勝利投手 鈴木鶴雄 1勝1敗
敗戦投手 石田光彦 0勝1敗


二塁打 (阪)堀尾 (金)黒澤
本塁打 (阪)堀尾 1号


金鯱、ツートップの威力


 金鯱は2回、この回先頭の五番黒澤俊夫が左中間に二塁打、二死後相原輝夫が中前にタイムリーを放ち1点を先制。更に鈴木鶴雄、島秀之助が連続四球を選ぶが江口行男は遊ゴロに倒れて追加点はならず。

 阪急は4回、右前安打の山下好一を一塁においてジミー堀尾文人が左翼スタンドに逆転のツーランを叩き込み2-1とする。金鯱先発の鈴木鶴雄はこの一発で目が覚めたのか以降阪急打線を2安打無失点に封じ込む。

 3回以降阪急先発石田光彦に3安打無得点に抑えられていた金鯱は8回、一死後小林茂太が四球で出塁、瀬井清の左翼線安打で一死一二塁、二死後好投を続けている鈴木鶴雄が中前に同点タイムリーを放ち2-2。瀬井は三塁に走り二死一三塁、トップに返り島が三塁線にセーフティバントを決めて3-2と逆転に成功する。

 鈴木鶴雄は6安打3四球4三振の完投で今季初勝利。金鯱はトップの島秀之助と五番の黒澤俊夫と、攻撃の起点を二つ持っている強みを発揮した試合であった。

2010年8月25日水曜日

12年秋 名古屋vsジャイアンツ 2回戦

9月8日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
1 0 2 0 2 0 1 0 0   6 名古屋            2勝4敗1分  0.333 森井茂 田中実 木下博喜
0 0 0 0 5 0 1 6 X 12 ジャイアンツ    4勝3敗       0.571 澤村栄治 青柴憲一


勝利投手 青柴憲一 2勝0敗
敗戦投手 木下博喜 1勝2敗


二塁打 (名)遠藤、石田
三塁打 (名)大沢、石田
本塁打 (ジ)中島 1号


ジャイアンツ、終盤に大逆転


 名古屋は初回、澤村栄治の立ち上がりを攻めてトップの石丸藤吉が左前打を放ちレフト伊藤健太郎のエラーで二塁に進む。石田政良の送りバントが内野安打となり送球エラーも重なり無死二三塁、桝嘉一三振、大沢清四球後、遠藤忠二郎の中犠飛で1点を先制する。
 名古屋は3回、先頭の石丸が内野安打で出塁、石田が送って大沢清の右中間三塁打で2-0、遠藤が左中間二塁打で続き3-0とする。更に5回、一死後石田が左中間に三塁打、桝のスクイズを澤村が一塁に大悪投して桝は三塁へ、大沢清の右犠飛で5-0とする。ジャイアンツ6回から澤村に代えて青柴憲一をリリーフに送る。名古屋が得点した1、3、5回はいずれも打順はトップの石丸からと言う巡り合わせ。

 ジャイアンツは5回裏、この回先頭の澤村に代わる代打津田四郎主将が三失で二塁に進み、前川八郎左前打で無死一三塁、白石敏男の中前タイムリーで1-5。筒井修が四球を選び一満塁。ここでピッチャーは先発森井茂から田中実に交代、水原茂押出し四球、中島晴康の中前打で二者が還り3-5。更に伊藤は四球で続き、山本栄一郎の三ゴロの隙に還って4-5、永澤の右犠飛で水原が還り5-5の同点。

 名古屋は7回、石田の二塁打などで1点をあげるとジャイアンツはその裏、中島治康が左中間スタンドに同点ホームランを放つ。

 ジャイアンツは8回、前川四球、筒井左前打、ワイルドピッチ、水原左前打、中島四球、伊藤左前打、平山菊治左前打、永澤押出し四球、青柴左前打等で6点をあげて試合を決める。好リリーフの青柴憲一が今季2勝目をあげる。

三冠への道 ⑯

 アルバート・プホルスは本日5打数3安打3打点1本塁打。今季458打数146安打、打率3割1分9厘(三位)、92打点(首位)、33本塁打(首位)。三冠達成に視界良し。残り試合は40試合、そろそろゼット旗を掲げる準備に入りたいと思います。

 本塁打部門は二位がアダム・ダンの31本、続いてジョーイ・ボット29本、ダン・アグラ28本。最大のライバル候補プリンス・フィルダーは25本、ライアン・ハワードは23本と伸びてきません。シーズン200三振は堅いアダム・ダンはどうしても限界があり、行って40本止まりでしょう。ジョーイ・ボットは実績がない分未知の魅力がありますがまさにここからが正念場。私の大穴ダン・アグラ(過去の当シリーズをご確認ください)がどこまで迫ってくるかが見ものです。

 打点部門は二位がジョーイ・ボットの86点、三位がライアン・ハワード、ブルワースのマギーの82点、81点のデビット・ライトにも若干可能性は残りますが、この部門が一番堅いか。


 最大の難関である打率部門は首位がジョーイ・ボットの.323、二位がマーティン・プラドの.320、四位カルロス・ゴンザレス.317の若さと五位プラシド・ポランコ.316の経験も侮れないところでここは全く分かりません。

 本日の33号ホームランにより通算399本となり、10年目での400号達成に王手がかかりました。本日までのメジャー通算成績は1,520試合、5,604打数1,863安打、399本塁打、1,204打点。本塁打はバリー・ボンズ、ハンク・アーロン、ベーブ・ルースを抜くのは間違いなく、恐らく彼らを抜き去っているであろうアレックス・ロドリゲスを抜いて史上1位になると、この場を借りまして予言させていただきます。

 歴代本塁打記録よりも達成してもらいたいのが2,000打点です。まずいけるとは思っておりますが。



 

2010年8月24日火曜日

12年秋 ライオンvsセネタース 2回戦

9月8日 (水) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 2 0 3 1 0 2 8 ライオン       3勝4敗  0.429  菊矢吉男-近藤久
0 0 0 0 0 0 0 4 0 4 セネタース   1勝6敗  0.143  浅岡三郎


勝利投手 菊矢吉男 2勝2敗
敗戦投手 浅岡三郎 0勝2敗
セーブ   近藤久 1


二塁打 (ラ)藤浪2、水谷 (セ)尾茂田
三塁打 (ラ)藤浪
本塁打 (セ)中村民 1号


浅岡三郎、三たび風に泣く


 ライオンは4回、先頭の藤浪光雄が四球で出塁、水谷則一中前打、四番浅原直人が送って一死一二塁、煤孫伝の中前打で二者が還り2点を先制。更に6回、又も先頭の藤浪が左中間を破る二塁打、水谷の三前送りバントが内野安打となり、浅原の左前タイムリーで3-0。煤孫の投前バントはピッチャー浅岡三郎からセカンドに送球されたがこれが高く逸れて水谷が還り4-0としてなお無死一三塁、一死後中野隆雄の二球目にダブルスチールを決めて5-0。7回にも藤浪の三塁打を水谷の二塁打で還して6-0とする。

 菊矢吉男に7回まで2安打無得点に抑えられていたセネタースは8回、苅田久徳の左飛をレフト煤孫が落球、煤孫は打撃は良いのだが守備が今ひとつ。当初はファーストで使われたが守備の破綻から外野に回されそこそここなしていたがエラーが目立ち始めた。中村信一四球、尾茂田叶左翼線二塁打で1点を返す。ここで四番中村民雄が左翼スタンドにスリーランホームランを叩き込み4-6と2点差に追い上げる。ここで菊矢吉男退き近藤久がマウンドへ、大貫賢四球、家村相太郎右翼線安打で無死一三塁と攻め立てるが、横沢四郎の代打野口明のファーストライナーに一走家村が飛び出してファースト浅原が無補殺併殺、続く浅岡が遊ゴロに倒れて追撃ならず。

 ライオンは9回、近藤が左前打とレフトのエラーで二塁に進み、鬼頭数雄の右前打で一死一三塁、キャッチャー中村民雄の三塁牽制が悪送球となり三走近藤が生還して7-4。このプレイは(2'-6)と記録されているので恐らくピックオフプレイを試みてサードが前進してショートが三塁ベースカバーに入ってキャッチャーが送球したが悪送球となったものと思われる。この間に三塁に進んだ鬼頭が続く藤浪の三ゴロをサード柳澤騰市がホームに悪送球する間に生還して8-4とする。

 ライオンは二番藤浪光雄が4打数3安打二塁打2本、三塁打1本で3得点、三番水谷則一が4打数3安打二塁打1本で2得点の活躍を見せる。

 この日の洲崎は強風で砂塵が舞う中での試合。センターからの強風について翌日の読売新聞は「速球を主戦武器とする菊矢投手は更にスピードが増す利に恵まれ、緩球とカーブに力を注ぐ浅岡投手にはかなり不利であった」と伝えている。

12年秋 イーグルスvsタイガース 2回戦

9月8日 (水) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0   イーグルス  5勝2敗  0.714  松本操  望月潤一
0 0 1 5 0 0 0 0 X 6   タイガース   5勝2敗  0.714  若林忠志


勝利投手 若林忠志 2勝1敗
敗戦投手 松本操   0勝1敗


二塁打 (イ)ハリス


若林忠志、今季二度目の完封


 タイガースは3回、一死後カイザー田中義雄が二塁内野安打とセカンドの悪送球で二塁へ進む、景浦将左前打と盗塁、藤井勇四球で一死満塁、ここでバッキー・ハリスが三塁に牽制悪送球してタイガースが1点を先制。ハリスの強肩については座ったままの送球で走者を刺したプレイなどが伝わっていますがハリスも人の子、牽制悪送球もあります。こういう歴史の闇に葬り去られたプレイを掘り起こしていくのが当ブログの使命です。

 タイガースは4回、若林忠志の投前バントがピッチャー松本操のエラーを誘い、皆川定之の投前送りバントはファースト中河美芳が落球。中河の伝説的守備ぶりについては何百回となく伝えられておりますが、中河のエラーをお伝えできるのは当ブログならではの醍醐味ではないでしょうか。続く本堂保次は三塁線に送りバント、ハリスがダッシュして三塁に送球するがフィルダースチョイスとなって無死満塁(このプレイについては、翌日の読売新聞で市岡忠男の論評によると奈良のバントは「三塁線に沿う絶好な球」であり、ハリスは三塁に投げるしか選択肢はなかったのであろう)。伊賀上良平押出し四球、田中左前タイムリー、景浦左犠飛で4-0。藤井の二球目にハリスが二塁に牽制、田中が刺されて二死一塁。これぞ伝説の座ったままの送球か(否かはスコアブックの記載だけでは分からない)、藤井の四球を挟んで玉井栄中堅左にタイムリー、奈良友夫中前タイムリーと得意の波状攻撃を見せてこの回一挙5点。

 イーグルスはここでようやく松本操をあきらめて望月潤一を投入、望月は以降8回まで2安打3四球0三振無得点に抑えきる。読売新聞や野球界に寄稿している評論家・小島六郎氏が盛んに成長ぶりを伝えている望月はプロ入り初と言っても良い好投を見せる。

 若林忠志は好調イーグルス打線を2安打1四球4三振に抑えて今季二度目の完封。春季リーグ戦終了後、読売新聞主催の座談会でジャイアンツ藤本定義監督の「タイガースは若林を出してこなかったので助かった」という発言が誌上に掲載されたが、当の若林を含めてタイガースサイドは相当カチンときたのではないだろうか。本日は強打タイガースが徹底したバント攻め、イーグルス好調は当然伝わっていたであろうが、昨日の敗戦によりイーグルスの強さを肌で感じ取ったが故の戦法であろう。


 イーグルスは今季初戦に続く2安打完封負け。あの時はサム高橋吉雄のシングル2本だけであったが本日はハリスの二塁打と高橋のシングルのみ。好調を続けてはいるが打てない時は徹底的に打てない。 


*写真は3回、田中義雄がハリスの三塁牽制悪送球により生還した場面






*写真は皆川定之の第二打席で投前送りバントの送球をファースト中河美芳が落球した場面

2010年8月23日月曜日

12年秋 金鯱vs阪急 1回戦

9月7日 (火) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
6 0 0 1 0 1 0 0 0  8  金鯱  4勝2敗         0.667  古谷倉之助-鈴木鶴雄
1 0 0 0 0 0 3 0 0  4  阪急  2勝3敗1分   0.400  中田武夫-笠松実


勝利投手 古谷倉之助 3勝0敗
敗戦投手 中田武夫   0勝1敗
セーブ   鈴木鶴雄 1


三塁打 (金)江口、瀬井


金鯱、初回に集中攻撃


 金鯱は初回、島秀之助の三ゴロをサード川村徳久が失して江口行男が中越えに三塁打を放って1点を先制。矢野槇雄の右前タイムリーで2点目、小林利蔵の三ゴロを又も川村がファンブル、黒澤俊夫の投前送りバントが内野安打となり無死満塁、小林茂太は三振に倒れるが、続く瀬井清が中越えに走者一掃の三塁打を放ちショート黒田健吾からの返球が逸れる間に瀬井も還って6-0とする。ここで阪急先発の中田武夫はKO、リリーフ笠松実が何とか後続を抑える。

 阪急はその裏、山下実、山下好一連続四球からジミー堀尾文人の左前タイムリーで1点を返す。しかし金鯱は4回、二死一三塁からダブルスチールを決めて相原輝夫が生還。6回にも小林茂太の左前タイムリーで1点を追加して8-1とする。

 阪急は7回、宇野錦次が四球を選ぶが林信一郎の投ゴロで1-4-3のゲッツー。しかし笠松四球、西村正夫二失、黒田四球で満塁とし、山下実が右前に2点タイムリーを放って3-8、堀尾が押出し四球を選んで4-8と追い上げるが、先発古谷倉之助の後を受けた二番手鈴木鶴雄に後続を断たれて結局金鯱が8対4で快勝。

12年秋 ジャイアンツvs名古屋 1回戦

9月7日 (火) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 2 0 0 0 0 0 0 2 ジャイアンツ   3勝3敗        0.500  スタルヒン
0 3 0 0 0 0 0 0 X 3 名古屋           2勝3敗1分  0.400  木下博喜


勝利投手 木下博喜      1勝1敗
敗戦投手 スタルヒン   1勝1敗


二塁打 (ジ)筒井 (名)木下
三塁打 (名)高木


木下博喜、投打に活躍


名古屋は2回、この回先頭の高木茂が右翼線に三塁打、芳賀直一四球後、木下博喜が左中間に二塁打を放って2点を先制、木下は三浦敏一の二ゴロで三進し、石田政良の内野安打でホームに還り3点目をあげる。

 ジャイアンツは3回、先頭の平山菊二が三失に生き、スタルヒンが中前打、これをセンター桝嘉一が後逸する間に平山が還りスタルヒンも三塁に進む。続く倉信雄の中犠飛でスタルヒンが還って2-3と1点差に詰め寄る。

 この後は木下博喜、スタルヒンの投げ合いが続き両軍無得点。ジャイアンツは5回に白石敏男、筒井修の連打が出るが得点無し。名古屋も6回2安打、7回四球と内野安打でチャンスを作るが得点無し。結局先制得点を叩き出した木下博喜が投げても6安打3四球1死球2三振自責点ゼロで完投勝利を飾る。

2010年8月22日日曜日

12年秋 セネタースvsライオン 1回戦

9月7日 (火) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
4 0 0 0 2 0 2 0 0 8  セネタース  1勝5敗  0.167  野口明
0 0 3 0 0 0 0 0 0 3  ライオン      2勝4敗  0.333  大友一明-桜井七之助


勝利投手 野口明   1勝4敗
敗戦投手 大友一明 1勝2敗


三塁打 (セ)中村信 (ラ)水谷、坪内


セネタース今季初勝利


 セネタースは初回、セカンドに戻った先頭の苅田久徳が中前打で出塁、二番ショート中村信一が四球で続き無死一二塁、尾茂田叶の中飛で苅田は三進、パスボールで中村信も二進して一死二三塁、四番中村民雄が中前にはじき返して二者を迎え入れ2点を先制。大貫賢左翼線安打で一死一二塁、家村相太郎の左前打でホームを突いた中村民はアウトのタイミングであったがキャッチャー藤浪光雄のエラーで生還、三塁に進んだ大貫も伊藤次郎の右犠飛で還り一挙4点と鮮やかな先制攻撃を見せる。

 ライオンは3回、藤浪の三ゴロをサード今岡謙次郎が一塁に悪送球、水谷則一の右中間三塁打で1-4、煤孫伝の投ゴロで水谷は飛び出しホームでアウトとなるが坪内道則が右翼線に三塁打を放ち煤孫が還って2-3、中野隆雄が左翼線タイムリーで続き3-4と追いすがる。
 セネタースは5回、今岡と尾茂田の四球で二死一二塁、中村民が左前にタイムリーを放ち更にレフト煤孫のエラーで尾茂田も還り6-3。更に7回、苅田が左前打で出塁、中村信が右中間に三塁打を放ち7-3、尾茂田の中犠飛で8-3と突き放す。

 野口明は5安打3四球3三振の完投でようやく片目を開ける。必然的にセネタースも今季初勝利。ここまで内野陣をいじくってきたが、苅田をセカンドへ、中村信一をショートに戻したとたん今季初勝利、しかし3回の失点はサード今岡謙次郎の悪送球からであり予断を許さない。

12年秋 タイガースvsイーグルス 1回戦

9月7日 (火) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
0 0 0 0 0 1 0 1 0   0  2  タイガース   4勝2敗  0.667  西村幸生
0 0 2 0 0 0 0 0 0 1X  3  イーグルス  5勝1敗  0.833  畑福俊英


勝利投手 畑福俊英 3勝0敗
敗戦投手 西村幸生 2勝1敗


二塁打 (タ)田中
三塁打 (イ)寺内 


バッキー・ハリス、サヨナラヒット 荒鷲、猛虎を喰う


 今季のイーグルス好調の要因の一つはショートに野村実を固定してサム高橋吉雄をセカンドに回すことにより、春季リーグ戦で見られた内野守備の乱れによる失点が無くなったことがあげられる。本日はショートに辻信夫が今季初出場。前の試合4打数2安打の野村を引っ込めたのは怪我のためではないかと考えられる。

 イーグルスは3回、この回先頭の七番中河美芳の当りは二ゴロ、しかしセカンド奈良友夫のエラーで無死一塁、八番辻信夫の投ゴロでランナーが入れ替わる。続く漆原進の遊ゴロを今度はショート岡田宗芳がエラー、寺内一隆が右翼線に三塁打を放って2点を先制する。

 5回まで畑福俊英に3安打無得点に抑えられていたタイガースは6回、一死後カイザー田中義雄が右中間に二塁打、藤井勇、奈良四球で一死満塁、西村幸生の三ゴロの間に田中が還って1-2とする。更に8回、景浦将の猛ゴロをサード漆原進が失して無死一塁、田中の送りバントが内野安打となり、藤井が一塁線に送りバントを決めて一死二三塁、奈良の二ゴロの間に景浦が還って2-2の同点に追い付く。

 8回裏イーグルスは無安打、9回は両チームとも無安打で延長戦に突入、10回表タイガースは三者凡退。

 イーグルスは10回裏、一死後漆原が左翼線に安打を放って出塁、寺内の二ゴロをセカンド奈良がこの日二つ目のエラーで一死一二塁、中根之の一ゴロはファースト本堂保次からショート皆川定之に送られて寺内はフォースアウト、しかしゲッツーは取れず二死一三塁、ここでバッキー・ハリスが左前にサヨナラ打を放ちイーグルスが3対2でタイガースを打ち破る。翌日の読売新聞の見出しは「荒鷲、猛虎を喰ふ」。

 西村幸生は5安打4四球6三振の力投を見せるが二遊間の3つのエラーに泣く。失点は3であるが自責点は当然ゼロである。一方畑福俊英は5安打5四球2三振、3試合連続完投で無傷の3連勝、軟投派が板に付いてきた。今季初の自責点1を記録したが防御率0.32、28回を投げて被安打14・与四球14でWHIP1.00。

 因みにWHIPとはセイバーメトリクスの代表的指標で、1イニング当りヒットと四球で何人の走者を許したかを計る。(被安打+与四球)÷投球回数で算出し、当然数字が少ない方が投球内容が良いことを意味する。走者を出しながらも得点を許さないというタイプには不利となる。現在メジャーでは勝利数よりも重要視されており、サイ・ヤング賞選出の投票基準は防御率、奪三振及び奪三振率、WHIPから判断されることが多い。なお、奪三振・与四球・被本塁打から算出するDIPSもメジャーで使われる指標ですが、昭和12年の職業野球においてはホームランがあまり出ない時代であることから、当ブログでは重要視しておりません。現在のようなホームラン乱発時代には有用な指標かもしれませんが、そもそも現在のようなホームラン乱発時代が正しいとは思っておりませんので、必然的にDIPSの有用性には疑問を感じております。「普遍性」を基準に考えた場合、「走者を出さない」ことがピッチングの基本であることはどの時代にも共通していると考えるならば、昭和12年当時であってもWHIPを用いて論じることは有効であると考えます。

12年秋 第1節 週間NVP

 秋季リーグ戦の第1節は各チーム5試合を消化。実況中継でもお伝えしているとおりイーグルスの快進撃が目立つ。イーグルス4勝1敗、タイガース4勝1敗、金鯱3勝2敗、阪急2勝2敗1分、ライオン2勝3敗、ジャイアンツ2勝3敗、名古屋1勝3敗2分、セネタース5戦全敗。


週間MVP

投手部門

 イーグルス 畑福俊英 1

 今節1完封を含む2勝0敗。防御率は0.00である。


打撃部門

 金鯱 瀬井清 1

 対名古屋2回戦で1試合2ホームランを記録する。



殊勲賞

 イーグルス 野村実 1

 イーグルス快進撃の陰の立役者。野村がショートに定着したことにより、サム高橋吉雄をセカンドに回すことができ、春季リーグ最大のネックであった内野守備陣が安定する。打っても5試合で18打数7安打の活躍。


敢闘賞

 金鯱 島秀之助 1

 好調金鯱の核弾頭。今節5試合連続ヒットを記録し、20打数9安打の活躍。


技能賞

 名古屋 森井茂 1

 開幕戦の対イーグルス1回戦で試合時間57分の最短記録を樹立して完封勝利。

 ライオン 柳澤騰市 1

 対金鯱1回戦9回表、二盗、三盗、本盗を決めてサイクルスチールを達成。

12年秋 タイガースvsセネタース 2回戦

9月5日 (日) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 1 0 1  タイガース  4勝1敗  0.800  藤村富美男-景浦将
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0  セネタース  0勝5敗  0.000  浅岡三郎


勝利投手 景浦将   1勝0敗
敗戦投手 浅岡三郎 0勝1敗


二塁打 (タ)本堂 (セ)大貫


セネタース、開幕5連敗


 セネタースの本日の日替わり内野陣はセカンド中村信一、サード苅田久徳、ショート今岡謙次郎。

 タイガース先発藤村富美男は4回までセネタース打線に3安打3四球を許すが無失点。5回からリリーフの景浦将は5イニングを無安打2四球に抑える。一方セネタース先発の浅岡三郎は7回までタイガース打線を3安打に抑え無失点。8回に3四球と野選でノーヒットで1点を失い力尽く。

 両チーム無得点のまま迎えた8回、タイガースは山口政信、景浦将が連続四球、藤井勇の投前送りバントは浅岡からサード苅田に送球されるがセーフ、犠打野選となり無死満塁、広田修三が押出し四球を選んで遂に1点を勝ち越す。

 両チーム3安打ずつの投手戦。セネタースは百万ドル内野が崩壊して全く「らしさ」が影を潜め、開幕5連敗を喫す。

2010年8月21日土曜日

12年秋 イーグルスvsライオン 2回戦

9月5日 (日) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 3 2 0 5 イーグルス  4勝1敗  0.800  藤野文三郎
4 0 0 0 0 0 0 0 0 4 ライオン       2勝3敗  0.400  桜井七之助-菊矢吉男


勝利投手 藤野文三郎 2勝1敗
敗戦投手 菊矢吉男   1勝2敗


二塁打 (イ)野村
三塁打 (セ)浅原
本塁打 (イ)高橋 1号


サム高橋吉雄、逆転ツーラン


 ライオンは初回、先頭の鬼頭数雄四球、坪内道則の投前送りバントが犠打エラーとなり水谷則一四球で無死満塁、ここで四番浅原直人が左中間に走者一掃の三塁打を放って3点を先制。更に煤孫伝の右犠飛で1点を追加して4-0とする。
 イーグルス先発藤野文三郎は2回以降立ち直りライオン打線に追加得点を許さず。一方、ライオン先発の桜井七之助は好調イーグルス打線を6回まで散発3安打無得点に抑える。
 イーグルスは7回、この回先頭のバッキー・ハリスが一失に生き、サム高橋吉雄の遊ゴロでランナーが入れ替わり高橋が二盗に成功。杉田屋守は三邪飛に倒れて太田健一に代わる代打に起用された短期兵役から帰ってきた中根之四球で二死一二塁、中河美芳に代わる代打畑福俊英が中前にタイムリーを放って1-4、この当りの処理にセンター坪内がもたつく間に一走中根も還って2-4。藤野四球後漆原進の当りは三ゴロ、しかしこれをサード柳澤騰市が失して3-4と追いすがる。 
 イーグルスは8回、先頭の野村実がショート内野安打で出塁、ハリスの三ゴロでランナーが入れ替わり、サム高橋が左翼スタンドに起死回生の逆転ツーランを放って5-4と逆転に成功する。藤野文三郎は8回、9回を抑えきって9安打5四球4三振の完封で2勝目をあげる。

12年秋 ジャイアンツvs阪急 2回戦

9月5日 (日) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 4 1 0 0 4 10  ジャイアンツ  3勝2敗        0.600  澤村栄治-前川八郎-青柴憲一
1 0 3 2 1 0 0 0 X 7    阪急              2勝2敗1分  0.500  石田光彦-笠松実


勝利投手 青柴憲一 1勝0敗
敗戦投手 笠松実   2勝2敗


二塁打 (ジ)水原 (阪)島本
三塁打 (阪)山下好
本塁打 (ジ)伊藤 1号


青柴憲一好リリーフ


 ジャイアンツは初回、白石敏男が一失に生き、筒井修中飛後、水原茂の中前打は白石が二塁でアウトとなりセンターゴロ(白石の二塁アウトは「8-1-6」と記録されており、水原がセンターゴロにより出塁している。恐らくセンターへの小フライとなりセンター堀尾がワンバウンドで捕球後白石を刺そうと二塁に送球したがこれが暴投となり、バックアップしたピッチャー石田からセカンドベースカバーに入ったショート野上に送球されて白石がフォースアウトとなり水原にセンターゴロが記録されたものと思われる。)、水原が二盗を決め中島治康の中前タイムリーで還って1点を先制する。

 阪急は1回裏、一死後黒田健吾、山下実が連続四球、山下好一の左前打で黒田が還って1-1の同点。阪急は3回、黒田左前、山下実右前の連打から山下好一が左中間に三塁打を放って3-1、キヨ野上清光の右犠飛で4-1とする。ジャイアンツ先発澤村栄治は3回4失点で降板、リリーフにセンターから前川八郎がマウンドに登場、センターには平山菊二が入る。

 阪急は4回、宇野錦次左前打、西村正夫の一ゴロでランナーが入れ替わり黒田の投ゴロが野選となり、二死後重盗が決まり二三塁、ここで山下好一が三打席連続のタイムリーとなる右前打を放ち西村が還り、ライト中島治康からの返球を前川が失する間に黒田も還り6-1とリードを広げる。

 ジャイアンツは5回、先頭の伊藤健太郎が左前打で出塁、平山の遊ゴロでランナーが入れ替わり倉信雄、白石連続四球で一死満塁、ここから筒井、水原、中島が三者連続タイムリーを放って4点を返して5-6と1点差に追い上げる。
 阪急が5回裏、四球の石田光彦を一塁において沖克己が左中間にタイムリー二塁打を放ち7-5とすると、ジャイアンツは6回、伊藤がレフトにホームランを放って6-7とする。ジャイアンツは6回から青柴憲一が三番手として登板、8回まで阪急打線を無得点に抑える。

 6回途中から登板の笠松実に抑えられていたジャイアンツは9回、先頭の永澤富士雄四球、伊藤がこの日4安打目となる左前打、伊藤の代走に山本栄一郎が入り、青柴四球で無死満塁、続く津田四郎主将は途中出場ながらこの日3安打目となるタイムリーを中前に放って7-7の同点、二走山本はセンターからの送球に刺される。白石が送って二死二三塁、筒井四球で二死満塁、ここで水原が右中間に走者一掃の二塁打を放って10-7と逆転に成功、青柴が9回裏を抑えてジャイアンツが逆転勝利を飾る。4イニングを無失点に抑えた好リリーフの青柴憲一が今季初勝利をあげる。



*写真は昭和9年全日本時の青柴憲一のサイン


2010年8月20日金曜日

12年秋 名古屋vs金鯱 2回戦

9月5日 (日) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0   名古屋  1勝3敗1分  0.250  木下博喜-田中実-西沢道夫
1 1 0 3 0 5 0 0 X 10  金鯱      3勝2敗        0.600  中山正嘉


勝利投手 中山正嘉 1勝0敗
敗戦投手 木下博喜 0勝1敗


本塁打 (金)瀬井 1号・2号


瀬井清、1試合2本塁打


 金鯱は初回、二死後三番矢野槇雄が四球で出塁、小林利蔵の三ゴロをサード倉本信護が失して二死一三塁、ピッチャー木下博喜のワイルドピッチにより1点を先制。金鯱は2回、二死後瀬井清が左翼スタンドにホームランを放ち2-0。

 名古屋は3回まで金鯱先発の中山正嘉に無安打に抑えられる。名古屋は4回、一死後高木茂が四球で出塁して二盗を試みるが相原輝夫の強肩に刺されて二死無走者。この直後、桝嘉一内野安打、大沢清相変わらずの右前打と連打が出るが白木一二は中飛に倒れる。

 金鯱は4回、この回先頭の黒澤俊夫四球、小林茂太遊失、瀬井四球で一死満塁。相原の二ゴロをセカンド石丸藤吉が失する間に二者が還り4-0として瀬井も三塁に進む。中山正嘉の遊ゴロで瀬井が還って5-0。更に6回、先頭の島秀之助が左前打で出塁、江口の投前バントをピッチャー田中実はセカンドに送球するがこれを再び石丸がエラー、矢野の捕前バントはキャッチャー三浦敏一からサード大沢清に渡って島がフォースアウト、小林利の中前タイムリーで6-0。黒澤が送って小林茂太四球で二死満塁、ここで瀬井清が左翼スタンドに満塁ホームランを叩き込んで10-0とする。

 中山正嘉は6回以降名古屋打線を2安打無得点に抑えて結局4安打4四球3三振で完封勝利。

 瀬井清が第一打席と第四打席にホームランを放つ。第二、三打席は四球を選んでおり二打数連続ホームランでもあった。恐らくプロ野球史上(初のプロ野球試合は大正12年6月21日に京城で行われた「日本運動協会」vs「天勝野球団」の試合である。後に読売新聞及び巨人軍により、初のプロ野球試合は昭和11年2月9日に鳴海球場で行われた金鯱vsジャイアンツの試合であると歴史が捏造された。)初のマルチホームランではないか。

 名古屋では1921年9月1日生まれの西沢道夫が16歳と4日で7回から登板してデビューを飾り、2イニングを投げて3つの四球を与えるが無安打に抑える。西沢は養成選手から本年8月25日に選手登録された。


*写真は公式記録としては日本初のプロ野球試合とされる昭和11年2月9日に鳴海球場で行われた金鯱vsジャイアンツ戦のパンフレット




2010年8月19日木曜日

12年秋 セネタースvsタイガース 1回戦

9月4日 (土) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 セネタース  0勝4敗  0.000  野口明
0 1 0 1 0 0 0 0 X 2 タイガース  3勝1敗  0.750  西村幸生


勝利投手  西村幸生  2勝0敗
敗戦投手 野口明     0勝4敗


本塁打 (タ)景浦 1号


西村が投げて景浦が打つ


 タイガースは2回、景浦将が左翼観覧席に今季第1号ホームランを叩き込み1点を先制。更に4回、一死後景浦が四球で出塁、藤井勇が左前に流し打って一死一二塁、比留木虎雄の三ゴロをサード横沢七郎が失して白球はレフトに達する。二走景浦はこれを見て三塁を蹴ってホームに突入、レフト青木幸造からのバックホームをキャッチャー中村民雄がエラー、タイガースは2-0とする。

 本日の西村幸生には2点の援護で十分であった。西村は抜群のコントロールを見せて5安打1四球4三振の完封で今季2勝目をあげる。藤井勇が3打数3安打、全てレフトへの流し打ちによるものであった。一方セネタースは5失策と守備陣が破綻をきたす。サード横沢七郎のエラー後、セカンド苅田がサードに回りセカンドに今岡謙次郎を入れるが、どうやり繰りしても一人足りない。セネタースは開幕四連敗、野口明が0勝4敗で全ての敗戦を一手に引き受けている。

12年秋 ライオンvsイーグルス 1回戦

9月4日 (土) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 2 0 0 0 0 2  ライオン       2勝2敗  0.500  大友一明-近藤久
0 3 0 0 0 0 0 0 X 3  イーグルス  3勝1敗  0.750  畑福俊英


勝利投手  畑福俊英 2勝0敗
敗戦投手  大友一明 1勝1敗


二塁打 (ラ)煤孫


破竹の荒鷲


 ライオンは初回、トップの鬼頭数雄が右前打で出塁、しかし畑福俊英の牽制に刺されてチャンスの芽をつぶす。
 イーグルスは2回、先頭のサム高橋吉雄がピッチャー強襲ヒットで出塁、杉田屋守の遊ゴロをショート中野隆雄が悪送球して無死二三塁、太田健一の遊ゴロで高橋が還り1点を先制。中河美芳が右前にタイムリーを放ち2-0、漆原進四球で一二塁とし、畑福俊英が左前にタイムリーを放ち3-0とする。


 ライオンは5回、この回先頭の中野が中前打で出塁、柳澤騰市が送って一死二塁、大友一明の遊ゴロをショート野村実が悪送球する間に中野が生還して1-3、鬼頭四球で一死一二塁、坪内道則の遊ゴロは6-4と渡るがセカンド高橋の一塁送球が暴投となり2-3。春のイーグルスであればここから破綻するのであるが秋は違う。畑福は続く水谷則一を三振に打ち取ってピンチを脱する。


 5回途中から大友をリリーフした近藤久はイーグルス打線を無得点に抑えるが畑福も6回以降を抑えきってイーグルスが逃げ切る。畑福俊英は6安打3四球8三振の完投で2勝目、前回の完封に続いて本日も自責点はゼロであり、現在防御率0.00。


 翌日の読売新聞は「破竹の荒鷲!」の見出しと共に「シーズン・オフにおける本格的練習が見事に実を結んでA級チームの風格を備え、さきにセネタースを連破して好調の波に乗るイーグルスはまたしてもライオンを膝下に組み伏せて破竹の概を示した。」と伝えている。春季リーグ戦と秋季リーグ戦との間は約1ヶ月半、チームを立て直すには十分の時間である。河野安通志、森茂雄監督が黙っているはずがない。

2010年8月18日水曜日

12年秋 阪急vsジャイアンツ 1回戦

9月4日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 0 0 0 2 0 3   阪急             2勝1敗1分  0.667  笠松実-重松通雄
1 2 1 0 0 0 0 2 X 6  ジャイアンツ  2勝2敗        0.500  スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 1勝0敗
敗戦投手 笠松実      2勝1敗


二塁打 (阪)山下好、山下実 (ジ)白石、永澤


阪急、新監督の船出を飾れず


 9月4日付け読売新聞は、「阪急軍は三日聯盟事務局に三宅大輔監督に代わって新たにマネージャー村上実氏を監督にまた主将には三塁手黒田健吾選手を登録した」と報じている。三宅監督更迭の表向きの理由はライバルタイガースに負け続けたことによるものであろう。ジャイアンツ監督時代は澤村や田部武雄に慕われた人格者であるが内紛に巻き込まれて阪急に転じ、阪急でもチーム内のゴタゴタに巻き込まれた。組織に迎合するのは苦手であったようである。阪急は何度か触れているようにチーム編成上の問題があり、煎じつめれば宮武三郎と山下実の二人の一塁手を同時に採用したことに帰結する。両雄は並び立たなかったのである。村上実マネージャーが監督となったのも宮武と山下実のどちらを次期監督にするかで揉めたための暫定措置である。しかし山下実派の黒田を主将に据えたのは次期監督は山下実であることを宮武派に知らしめるためであり、実際、翌年山下実が監督に就任していることからこの後宮武派は追い詰められていったのであろう。翌年宮武が内野手登録から投手登録に変わっているのも一塁手は山下実であることを周知させるためであろう。宮武は昭和13年限りで引退することとなる。いずれにしても阪急があれだけのメンバーを揃えながら成績をあげることができなかったのはチーム編成上の問題に起因する。これは戦後の灰色ブレーブスに引き継がれ、西本・上田時代に黄金期を迎えながら、人気球団となったタイガースとは対照的に球団経営からも撤退せざるをえなくなるのである。


 ジャイアンツは初回、一死後筒井修が四球に歩き水原茂との間でエンドランを決めて一死一三塁、中島治康の右犠飛で1点を先制する。2回は二死後スタルヒン、倉信雄の連打から白石敏男が中越えに二塁打を放って2点を追加。更に3回、代わったばかりの重松通雄から水原が四球を選び盗塁、一死後前川八郎も四球に歩くとダブルスチールを決めて一死二三塁、永澤富士雄の一ゴロで水原が生還してノーヒットで1点を加え4-0とする。


 阪急は4回、山下実四球、キヨ野上清光の三ゴロでランナーが入れ替わり、山下好一の右翼線二塁打とジミー堀尾文人の死球で一死満塁、ここで上田藤夫がスクイズを決めて1-4とする。


 阪急は8回、四球と二つのエラーで二死満塁とし、代打石田光彦が右翼に2点タイムリーを放って3-4と追い上げるが、ジャイアンツはすかさずその裏、前川右前打、永澤右中間二塁打で一死二三塁とし、平山菊二の遊ゴロの間に1点、スタルヒンの右前タイムリーで計2点を追加して結局6対3で勝利をおさめる。スタルヒンは6安打2四球7三振で完投勝利。


 阪急4回の攻撃、4点ビハインドで迎えた一死満塁の場面でスクイズのサインを出したのは村上新監督であったのだろうか。村上実は慶應義塾大学時代、野球部の名マネージャーとして鳴らしたので素人ではないがいかにも消極的、スクイズの次に代打に送られた宮武三郎はどのような気持ちで打席に立ったのであろうか。宮武は一塁ゴロに倒れる。

12年秋 金鯱vs名古屋 1回戦

9月4日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 計
2 1 0 0 0 0 0 0 0  0   1   4  金鯱       2勝2敗        0.500  鈴木鶴雄-古谷倉之助
0 1 1 0 0 0 0 1 0  0   0   3  名古屋   1勝2敗1分   0.333  森井茂


勝利投手 古谷倉之助 2勝0敗
敗戦投手 森井茂    1勝1敗


二塁打 (金)鈴木 (名)桝
三塁打 (名)三浦


名古屋、15残塁の拙攻


 秋季リーグ戦名古屋ダービーの緒戦。金鯱は三番サードに矢野槇雄を起用。岡田源三郎監督は四番は小林利蔵を固定し、三番に初戦は黒澤俊夫、二・三戦は川上良作、川上が二試合連続ノーヒットに終わるや本日は矢野を起用。

 金鯱は初回、先頭の島秀之助がセーフティバントを決めて出塁、一死後三番抜擢の矢野が左前打で期待に応える。小林利右前打で一死満塁、黒澤が押出し四球を選んで1点を先制、小林茂太の二ゴロで名古屋守備陣は4-6-3のゲッツーを狙うがファーストセーフで矢野が生還して2-0。更に2回、一死後鈴木鶴雄が左中間に二塁打、ワイルドピッチで鈴木は三進、島の遊ゴロで鈴木がホームに突っ込むがショート芳賀直一のバックホームにタッチアウト。一塁に残った島が二盗に成功、江口行男の左前打で島が還り3-0とする。

 名古屋は2回、一死後倉本信護が中前打で出塁、芳賀の三ゴロでランナーが入れ替わりワイルドピッチで芳賀は二進、森井茂が左前にタイムリーを放って1-3。更に3回、石田政良の内野安打と桝嘉一、大沢清の連続四球で一死満塁とし、白木一二の三ゴロの間に1点を返して2-3と追いすがる。

 名古屋先発の森井茂は3回に1安打を許すが4回以降7回まで無安打に抑える好投、8回江口に久々にヒットを許すが無得点に抑えて味方の反撃を待つ。名古屋は8回、この回先頭の倉本信護が四球で出塁、芳賀が送って二死後三浦敏一が中越えに起死回生の三塁打を放って遂に3-3の同点に追い付く。

 延長に入り名古屋は10回裏、一死後芳賀が四球で出塁、森井の遊ゴロをショート瀬井清がはじいて一死一二塁、金鯱はここで鈴木鶴雄をあきらめてエース古谷倉之助を投入、岡田監督の継投策がズバリ決まって古谷は三浦を中飛、石丸藤吉を三振に抑える。

 金鯱は11回表、一死後小林利蔵の二ゴロをセカンド石丸が失して一死一塁、代走に五味芳夫を起用、黒澤の投ゴロで五味は二塁に進み、小林茂太が左前に決勝のタイムリーを放って4-3と勝ち越す。名古屋もその裏二死から小島茂男四球、遠藤忠二郎中前打で一二塁とする粘りを見せるが最後は古谷が倉本を投ゴロに打ち取りゲームセットのサイレンが高々と鳴り響く。

 名古屋打線は10安打を放ち6個の四球を選び金鯱守備陣は5失策、結局15残塁を記録する。三番桝嘉一は4残塁、四番の大沢清と小島茂男の無安打が響いた。八番森井と九番三浦は2安打ずつ、しかしトップの石丸が6打数無安打で森井が2残塁、三浦が3残塁と打線のつながりを欠いたことが敗因であった。

2010年8月17日火曜日

三冠への道 ⑮

MVP争い 

 アルバート・プホルスは8月16日現在、435打数137安打、打率3割1分5厘(第5位)、30本塁打(第2位)、86打点(首位)と三年連続MVP及び三冠王が視野に入ってきました。

 MVPのライバルはシンシナティ・レッズのジョーイ・ボットに絞られてきました。ボットは8月16日現在、404打数130安打、打率3割2分2厘(首位)、28本塁打(第3位)、79打点(第3位)。

 OPSはボットの1.015に対してプホルス0.995ですが、この差はボットの打数が少ないことに起因しており、打率と共に十分逆転可能な位置にいます。
  
 セントルイス・カージナルスとシンシナティ・レッズはナショナル・リーグ中地区において、昭和12年春季リーグ戦のジャイアンツvsタイガースに匹敵する或いはそれ以上の日替わりで入れ替わる首位争いを繰りひろげており、両者のバットに覇権がかかっています。

 プホルスは7月30日現在の2割9分5厘、23本塁打71打点を底にようやくエンジンが掛かってきており、7月31日以降13試合で55打数25安打、打率4割5分5厘、7本塁打、15打点と今年初めての爆発状態に入ってきました。例年ですと8月末辺りで二冠王ながら終盤息切れのパターンが三冠達成を阻んできた要因となっていましたが、今年は終盤に向けて調子をあげてきており、いよいよ大願成就が見えてきました。



奇跡の追いこみ

 アメリカン・リーグ二年連続首位打者にして昨年のMVP、ミネソタ・ツインズのジョー・マウアーが打率争いにおいて奇跡的な追い込みを見せております。

 マウアーは怪我による出遅れの影響で、7月25日現在、329打数97安打、打率2割9分5厘と全くノーマークの状態でした。ところが7月26日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦で5打数5安打7打点を記録するやそのバットに火がつき、それ以降の17戦で64打数33安打、打率5割1分6厘をマークし、打率を3割3分1厘に上げてきました。

 今年のアメリカン・リーグ首位打者争いは、前半戦まではロビンソン・カノが3割6分台をキープしてトップ、中盤戦に入りジョシュ・ハミルトンとミゲール・カブレラが激しく追い上げ3割6分台での争いを繰り広げた後、現在はハミルトンが3割6分2厘で独走態勢に入っているのですが、マウアーの追い上げで分からなくなってきました。常識的には7月後半で首位との約7分差をひっくり返すということはあり得ませんが、マウアーのスウィングであれば十分可能であると考えます。

 私の知るところ、ジョー・マウアーのスウィング・アークの美しさはメジャー史上No1であると思います。これは想像ですが恐らくジョー・ジャクソン(タイ・カップやベーブ・ルースがそのスウィングを真似た伝説的大打者、映画「フィールド・オブ・ドリームス」のモデル)に匹敵するのではないでしょうか。

 日本では藤田平のスウィングが最も美しいと思っておりますが、マウアーはバットが立ったまま鋭く振り抜きますので藤田平ほどの柔らかさは感じさせませんが、美しさと力強さを兼ね備えています。



 

12年秋 タイガースvsライオン 2回戦

9月2日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 3 0 0 0 0 0 1 1 5  タイガース   2勝1敗  0.667  若林忠志
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0  ライオン      2勝1敗  0.667  菊矢吉男


二塁打 (タ)景浦
三塁打 (タ)皆川、伊賀上


若林忠志、投打に活躍


 タイガースは2回、先頭のカイザー田中義雄が死球で出塁、景浦将の二ゴロでランナーが入れ替わり藤井勇四球で一死一二塁、本堂保次が右前に先制タイムリーを放って1-0、若林忠志も右前にタイムリーで続いて2-0、本堂は三塁に進み捕逸で還って3-0と先制する。
 タイガースは8回、二死から本堂が二失に生き盗塁に成功、若林が中前にこの日二本目のタイムリーを放って4-0。更に9回、中越え三塁打の伊賀上良平を田中が右前タイムリーで還して5-0とする。
 若林忠志はライオン打線に4回まで4安打を許すも無得点に抑え、5回から8回は無安打ピッチング、9回に3本のヒットを許すも無得点に抑えきり、7安打3四球5三振の完封でライオンに雪辱。

12年秋 イーグルスvsセネタース  2回戦

9月2日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 9 0 0 0 0 2 3 16  イーグルス  2勝1敗  0.667  松本操-望月潤一-藤野文三郎
5 1 0 0 0 0 0 0 0  6   セネタース   0勝3敗  0.000  伊藤次郎-浅岡三郎-野口明


勝利投手 藤野文三郎 1勝1敗
敗戦投手 野口明    0勝3敗


二塁打 (イ)寺内2、高橋、杉田屋、野村、ハリス (セ)青木
三塁打 (セ)中村民
本塁打 (イ)寺内 1号


イーグルス、結団以来の大勝利


 セネタースは内野が一人足りないとあって遂に横沢三郎監督がセカンドで先発出場、苅田は本日もサードを守る。

 イーグルスは初回、先頭の寺内一隆が左翼線二塁打で出塁、野村実の一塁線送りバントが内野安打となり無死一三塁、バッキー・ハリスが右翼線に先制タイムリーを放ちなお一三塁、サム高橋吉雄四球後杉田屋守の中犠飛で2-0と先制する。

 セネタースは1回裏、先頭の苅田久徳が中前打、中村信一、尾茂田叶連続四球で無死満塁、中村民雄が中越えに走者一掃となる大三塁打を放って3-2と逆転、大貫賢中犠飛で4-2、更に家村相太郎も左前打で続くとイーグルスベンチはたまらんとばかりに先発松本操から急遽望月潤一に交代、伊藤次郎四球で一死一二塁、青木幸造が三遊間を破り二走家村は三塁ベースを蹴って本塁へ向かう、レフト寺内のバックホームをカットしたピッチャー望月はホームをあきらめ二塁をオーバーランした一走伊藤を見てセカンド高橋に送球、ボールはサード漆原進に転送されてタッチアウト、九番横沢三郎監督は三ゴロに倒れてチェンジ。

 セネタースは2回、先頭の苅田が四球で出塁、中村信の遊ゴロの間に苅田は三塁へ、尾茂田の投ゴロで苅田が生還とノーヒットで1点を追加。しかし望月は初回三塁打の中村民を三振に斬って取り味方の反撃を待つ。

 イーグルスは3回、先頭の寺内が左翼スタンドにホームランを叩き込んで反撃の狼煙を上げる。野村四球、ハリスは右飛に倒れるが、高橋の右中間タイムリー二塁打でこの回2点目、セネタースは伊藤から浅岡三郎にスイッチ、杉田屋も左中間を破り3点目、しかし杉田屋は三塁を欲張りタッチアウトで二死無走者。しかし秋のイーグルスはここからが違う。太田健一四球、中河美芳四球、漆原の中前タイムリーでこの回4点目、望月の代打石井秋雄四球で二死満塁、セネタースは浅岡を降板させてサードに回し横沢三郎監督退き苅田をセカンドに回してピッッチャー野口明を投入。しかしトップに返り寺内が右翼線に二塁打を放って二者を迎え入れて6点目、野村も左中間に二塁打を放ち8点目、更にレフトからの三塁返球を急造三塁手浅岡が後逸する間に野村も還ってこの回大量9点をあげる。

 イーグルスは3回から第二エースの藤野文三郎を投入。セネタースはイーグルスの圧倒的攻撃に戦意を喪失し3回以降3安打で藤野に零封される。一方イーグルスは攻撃の手を緩めず8回、野村・ハリスの連打に高橋四球から杉田屋の2点タイムリー、9回も寺内のヒットと三つの敵失で3点を加えて16対6でチーム結成以来の大勝利をおさめる。寺内一隆は4安打、二塁打2本、本塁打1本、9塁打の活躍。

 この試合の明暗を分けたのは二番手投手の出来にあった。イーグルス望月潤一は初回に緊急登板、しかし望月が登板する時はいつもこの様な状況で慣れもあったかもしれないが、8月26日付け読売新聞「職業野球の展望」イーグルス編に「投手の望月に可なりの進境が見え」とあり「野球界」昭和12年10月1日号「秋の職業野球新戦線」イーグルス欄には「投手に望月の進境があるので」とあるように、春はコントロール難から破綻をきたしていたが本日はセネタースの流れを食い止め味方の反撃につないだ。2回の失点は苅田こその好走塁によるものである。一方セネタース浅岡三郎は火に油を注ぎ大量失点に結びついてしまった。

 本日セネタースは横沢三郎監督が緊急出場したが、横沢監督はナインの人心を掌握しきれていないようだ。金鯱の岡田源三郎監督は春季リーグ戦終盤に緊急出場し、これをきっかけにナインの心に火がついて5連勝を二度記録する快進撃につながったが、セネタースはご覧のとおり。実際、横沢監督は秋季リーグ戦途中で審判に転向し、苅田がプレイングマネージャーを務めることとなる。苅田久徳著「天才内野手の誕生」には苅田の監督昇格は秋季リーグ戦終了後と書かれており、松木謙治郎著「タイガースのおいたち」には春季リーグ戦終了後秋季リーグ戦が始まる前と書かれている。しかし横沢三郎審判は秋季リーグ戦途中の9月22日金鯱vsイーグルス1回戦に審判としてデビューしており、本日選手として出場しているのがスコアブックに残された事実関係である。松木は当事者でないことによる記憶違い、苅田の著書には他にも時系列に疑問の残る記述も見られることから記憶違い(と言うより苅田はあまり細かいところには無頓着。因みに同著は数ある自伝の中でも秀逸です。中でもセネタース入団時春季キャンプに向かうくだりなどは感動を覚えます。)であろう。事実関係からは秋季シーズン途中の監督交代という結論が導き出される。なお、横沢三郎の選手としての公式戦出場は本日の1試合のみである。